***Sugar Cat 6
窓越しに家の下を見てみると、いつものように小さな人影を発見した。空を見ているらしいそれは・・・ボォーっとしているように見え、俺も同じように空を見てみるととても曇っている。
そろそろ降りないと、と階段を降り、ドアを開けようとするが・・・ドアの向こう側に立っている彼にどう対応していいのやら俺にはわからない。
「おはよう」と言えばどんな反応が返ってくるだろうか?言ってみるべきか・・・?
ガチャリとドアノブを時計回りに回して押すと・・・「あ、孝太郎。」という声変わりをしていない幼い男の声が聞こえてきた。
「・・・。」
あ。「おはよう」って言おうとしていたの忘れてた・・・。俺は眉間に皺を寄せるけど、彼は毎日来てくれるわけだし・・・ね。ま、いっか。
俺は遅刻しないようにとスタスタ歩き出すが、後ろを歩く彼はあまり歩くのが早くないようだから少し歩くのを遅くしてみる。
うんうん、こんなもんだよな。
「・・・はよ。」
ん?なんか言ったかな、と後ろを振り返り彼を見ると驚いたようにビクリと反応する奴。
彼は守山 智明。高2に進入して同じクラスになり、たまたま目が合って「あ。」と守山が反応したもんだから、俺は思わず「うん。」と頷いてしまった。
それ以来懐かれて、毎朝家に迎えに来てくれるようになった。ありがたいけど、守山がそこまでしてくれる訳がわからない俺にとっては不思議なもんだった。
守山は「可愛い」とか「健気」とかってことで(男子校だけど)モテてるらしいけど・・・泉田と付き合っているということを聞いたことがある。飽く迄も噂だけど。
しばらく考え事をしながら歩いていると、「孝太郎、今日って体育あるよな?」という守山の声が聞こえてきた。
あまりにも突然だった為「あるんじゃね。」と一言で返してしまい、守山は下を俯いてしまった。守山は内気なのか知らないが、最初の頃は話すことも無かった。たまに話しかけられたりするけど、内気な子ってのは傷つきやすいのかと思って頷くことしかできなかった。
話しかけるなんて無理。俺と居る時の守山は目がウルウルしていて話がけ辛いというか・・・泣かせてしまいそうで怖い。泉田と一緒に居る時の方が一番可愛いと思うんだけど・・・。
*****
「あ、泉田!今日の体育って何だっけ?」
教室に広がる、泉田を呼ぶ幼い声。朝同じような質問をされたことを思い出して声のした方を見てみると、守山と泉田の姿が教室の隅っこにあった。
「え、バスケじゃなかったっけ?中谷に訊かなかったの?」
え、俺?あぁ・・・守山はまだ俺に慣れてないから訊けないんだよな。
一人で納得していると、教室の入り口から同じ部の奴らが他のクラスから来ていた。守山を見る俺を見た奴らは顔を見合わせ、ニヤリと笑い合っていた。
「なに、お前も守山好きなわけ〜?このクラスの奴って守山のこと密かに好きな奴多いよな。」
「は?守山は泉田と付き合ってんじゃねーの?」
「え、マジ?うわー、可哀想に。」
だから違うってば、と笑っていると、先ほど声がした方から「中谷」という俺の名字が聞こえた。だけど今振り向きでもしたら、「やっぱ気になるんじゃん〜。」と茶化される結果になるので止めておいた。
「あっ!てかさ、守山ちゃんは泉田とは付き合ってないよ?だって泉田って他校に彼女いんじゃん。」
そうなんだ・・・。それは知らなかった。毎朝一緒に学校に行ってんのに何も知らないんだな・・・俺。
「おい、なに考えてんだよ〜。」
「・・・・学校一緒に行ってんのに、俺はなにも知らなかったんだなって思って。」
「マジで!!?うわー・・・意外とやるね、お前も。」
「だから違うって言ってるだろ・・・。」
どうかな〜、としつこい奴らに少々苛立ちが俺の中から込み上げてくる。
守山は俺に話しかけることは滅多に無いし、泉田と特別仲がいいし・・・俺はそれを知ってるから好きになるはずが無い。なったとしても、何かが変わる事もないし、だから俺はそれに気付くことは無いと思う。
「てかさ、てか・・・一緒に学校行くのって何したわけ?」
「頷いた、みたいな?わかんない。」
俺の一言は、奴らの心に火を点けたらしく・・・
『真面目に答えろよ!』
『お前絶対嘘吐いてるだろ!』
『罰金100万だからな〜。』など。奴らは俺に野次をとばした。ウザいんですけど・・・。
「あ、中谷、守山ちゃんお前の事見てるんじゃね?」
「え?」
俺が振り向いた瞬間、守山は「あ。」という口の形をしたままコッチを見ていた。
「なんかあった?」
「うわっ・・・。」
え、俺なんか悪いこと言った!?